
韓国の民間療法シリーズ第3弾のテーマは、오소리 기름(オソリ・キルム)、つまり「アナグマの油」です。
韓国では昔から、やけどをしたとき、手足がひび割れたときに「オソリの油を塗っておけば治る」と言われてきました。おばあちゃんの家の棚に、小さな瓶が置いてあった…という話もよく聞きます。
日本の方なら「それって馬油(バーユ)みたいなもの?」と思うかもしれません。たしかに、動物の脂を肌に塗るという点はよく似ています。でも、韓国と日本では、置かれている状況がかなり違います。
先に大事なことを言っておきます。やけどをしたら、まず流水で冷やすこと。油を塗るのは応急手当ではありません。これは韓国の公的機関も、日本の公的機関も同じことを言っています。
この記事のポイント
- 오소리 기름は、韓国でやけどや肌荒れに使われてきた昔ながらの民間療法。
- やけどに効くという、しっかりした臨床研究は見当たりません。
- 韓国の看護師団体は、やけどに油や味噌などを塗ると「かえって感染のもとになる」と注意しています。
- 韓国では野生のアナグマを勝手に捕まえるのは違法。密猟で摘発された事例も報道されています。
- 日本の馬油も、多くは「化粧品」。医薬品として認められた治療薬ではありません。
- やけどの応急手当は、日韓とも「すぐに冷やす」が基本です。
오소리 기름って、どんなもの?
오소리はアナグマのこと。タヌキに似た顔で、土の中に巣穴を掘って暮らす動物です。その皮下脂肪を加熱して取り出した油が、오소리 기름です。
韓国では「やけどの跡が残らない」「あかぎれ、ひび割れに効く」「肌がしっとりする」といった言い伝えがあります。地方によっては、肉や脂を「体にいい」と食べる習慣も残ってきました。
今でも韓国の通販サイトでは、アナグマ由来の製品が見つかります。韓国の研究チームの調査を伝えた中央日報の記事によると、国内17の通販プラットフォームで、漢方・化粧品・食品などとしてアナグマ関連製品が売られていたそうです。
つまり、「昔話」ではなく、今も形を変えて生きている民間療法なんですね。
なぜ「やけどに油」なの?
理由はシンプルだと思います。やけどのあと、皮膚はひりひりして乾きます。そこに油を塗ると、表面がしっとりして、少し楽になった気がします。
昔は病院が遠く、薬も高かった時代です。家にあるもので何とかしよう、という知恵だったのでしょう。日本で、やけどにアロエや味噌を塗った話を聞いたことがある方も多いはずです。
ただ、「楽になった気がする」と「治る」は別の話です。ここからは、今の医学の目で見ていきます。
科学的な根拠はあるの?
結論から言うと、アナグマの油がやけどを治すという、信頼できる臨床研究は見つかりませんでした。
動物の脂は、肌の表面にふたをして、水分が逃げるのを防ぎます。これはワセリンなどの保湿剤と同じような働きです。でも、それ以上の「特別な治す力」があるかどうかは、確かめられていません。
ここで大事なのは、「保湿」と「やけどの治療」は違うということ。やけどの直後に必要なのは、皮膚の中に残った熱を逃がすことです。油でふたをしても、熱は抜けません。

やけどに塗るのが危ない理由
ばい菌が入りやすくなる
やけどをした皮膚は、外からの守りが弱くなっています。韓国の看護師団体(大韓看護協会)のホームケア案内では、やけどに油、ワセリン、しょうゆ、味噌、小麦粉などを塗ると「かえって感染を招く」とはっきり書いています。
韓国の病院の外科医も、新聞で「焼酎、味噌、じゃがいもなどの民間療法は感染の心配が大きく、合併症のおそれもある」と話しています。
手作りの油は、衛生管理がわからない
家で作った油や、出どころのわからない油は、どんな環境で作られ、どう保存されたかがわかりません。野生動物の脂なら、なおさらです。
傷のある肌に、品質のわからないものを塗る。これがいちばんのリスクです。
アレルギーやかぶれ
動物性の油でも、肌に合わない人はいます。とくに弱った皮膚は刺激を受けやすくなっています。赤み、かゆみ、ぶつぶつが出たら、すぐにやめましょう。
病院に行くのが遅れる
「油を塗ったから大丈夫」と思って、本当は受診が必要なやけどを放っておく。これも見落とせない危険です。やけどは深さによって、跡が残ったり、治療が長引いたりします。
韓国ではどんな扱い? 法律の話
野生のアナグマは、勝手に捕まえてはいけない
韓国には「野生生物の保護及び管理に関する法律」があります。2024年には、済州島で「体にいい」とアナグマを罠で捕まえ、焼いて食べたりエキスにしたりした人たちが、この法律違反の疑いで送検されたと報じられました。
報道によると、野生生物を捕まえたり殺したりすると2年以下の懲役または2,000万ウォン以下の罰金、捕獲用の道具を作ったり持ったりするだけでも1年以下の懲役または1,000万ウォン以下の罰金の対象になります。
「昔ながらの油を自分で作ってみたい」は、韓国では法律の面でもおすすめできません。
化粧品として売るなら、「治る」とは言えない
韓国で化粧品に使ってはいけない原料は、食品医薬品安全処(MFDS)の告示「化粧品安全基準等に関する規定」で決められています。大韓化粧品協会の案内では、禁止リストにない原料は、メーカーの責任で使えるしくみです。
ただし、化粧品はあくまで化粧品。「やけどが治る」といった薬のような効き目を言えるわけではありません。今回調べた範囲では、アナグマの油が「やけどの医薬品」として認められているという公的な情報は見つかりませんでした。
アナグマ飼育にも議論がある
韓国にはアナグマを飼育する農場もあります。先ほどの中央日報の記事では、研究チームが「動物から人にうつる病気のリスク」や「逃げ出した個体が在来のアナグマに影響するおそれ」を指摘し、飼育のあり方を見直すよう提言していました。
日本の馬油と、どう違う?
日本で「動物の油を肌に」と言えば、やはり馬油でしょう。熊本など馬肉の産地を中心に、クリームや石けんとして身近に売られています。
馬油も、昔から「やけど・切り傷に」と言い伝えられてきました。ただ、代表的なメーカーの公式サイトでも、馬油は医薬品としては認められておらず、皮膚保護用の化粧品に分類されていると説明しています。
日本の皮膚科医も、市販の馬油は化粧品で、治療のための医薬品とは別物だと解説しています。処方された塗り薬の代わりに使うのはすすめられない、という立場です。
そして日本の薬機法では、化粧品で「やけどが治る」のような誇大な広告はできません。
まとめると、馬油もアナグマの油も「保湿のための油」であって、やけどの治療薬ではない、というところは同じです。大きく違うのは、原料の出どころと、身近さです。
「日本と違う点」をひと目で
| 韓国:오소리 기름(アナグマ油) | 日本:馬油 | |
|---|---|---|
| 原料 | アナグマの皮下脂肪。野生の捕獲は法律で規制 | 食用馬を解体するときに出る脂 |
| 言い伝え | やけど、ひび割れ、肌荒れ。地域によっては食べる習慣も | やけど、切り傷、肌荒れ |
| 今の売られ方 | 通販などで化粧品・漢方・食品として流通。手作り品も | ドラッグストアで化粧品として広く販売 |
| 医薬品として | やけど治療薬として認められた公的情報は見当たらず | 医薬品としては認められていない(化粧品) |
| 主なリスク | 手作り品の衛生、感染、かぶれ、密猟の問題 | かぶれ、傷に塗ったときの感染 |
| やけどの応急手当 | 流水で20分以上冷やす(韓国 疾病管理庁) | 10分以上冷やす(消費者庁・政府広報) |
やけどをしたら:日韓の公的な応急手当
ここがいちばん大切なところです。
韓国の疾病管理庁(KDCA)の国家健康情報ポータルでは、まず安全な場所に移り、流れる冷たい水で20分以上冷やすこと、水ぶくれはつぶさないこと、指輪や時計は腫れる前に外すことを案内しています。
日本の消費者庁や政府広報オンラインでは、すぐに10分以上冷やすこと、水道水やシャワーを患部に直接強く当てないこと、服の上からかかった場合は脱がさずに服の上から冷やすことをすすめています。市販の冷却シートはやけどの手当てには使えない、とも書かれています。
日本赤十字社は、広い範囲を冷やし続けると体温が下がりすぎる危険があるので、とくに子どもやお年寄りは注意するよう呼びかけています。
冷やす時間の目安は国や機関によって少し違いますが、「塗る前に、まず冷やす」はどこも同じです。
安全チェックリスト
- □ やけどをしたら、油やクリームより先に、すぐ水で冷やした?
- □ 水ぶくれをつぶしていない?
- □ 指輪・時計などを、腫れる前に外した?
- □ 味噌、しょうゆ、焼酎、油などを傷に塗っていない?
- □ 出どころのわからない手作りの油を、傷のある肌に使っていない?
- □ 子どもやお年寄りの広いやけどを、長く冷やしすぎていない?
- □ 保湿に動物性の油を使うなら、治った肌に少しだけ試して、かぶれないか確かめた?
- □ 韓国旅行のおみやげで、「治る」とうたう製品をうのみにしていない?

こんなときは病院へ
日本の消費者庁・政府広報や、韓国の公的機関の案内をもとにまとめました。
- 全身の広い範囲、顔のやけど:すぐに救急車(日本は119、韓国も119)
- 片腕・片足以上の広いやけど:救急車を呼ぶか、急いで受診
- 手のひらより広いやけど、水ぶくれができた:つぶさずに受診
- 皮膚が白っぽい・黒っぽい、痛みを感じない:深いやけどの可能性。すぐに受診
- 関節、手、顔などのやけど
- 赤みや腫れが広がる、膿が出る、熱が出る:感染のサイン
- 電気カーペットなどの低温やけど:見た目より重いことがあります
日本で迷ったときは、救急安心センター(#7119、実施地域のみ)や、子どもなら「#8000」に相談できます。
Q. よくある質問
Q. 오소리 기름は、韓国のおみやげで買っても大丈夫?
A. 化粧品として保湿に使う分には、ほかのクリームと大きくは変わりません。ただ、やけどや傷の「治療」には使わないでください。動物由来の製品は、日本に持ち込むときのルールにも気をつけましょう。
Q. 馬油ならやけどに塗ってもいいの?
A. 馬油も医薬品ではありません。やけどの直後は、まず冷やすこと。水ぶくれや広いやけどは受診してください。
Q. やけどが治ったあとの保湿なら?
A. 傷がふさがったあとの乾燥対策としては、保湿剤を使う人は多いです。気になる跡や、処方薬がある場合は、医師に相談してから決めると安心です。
Q. 氷で冷やすのはだめ?
A. 仙台市消防局の案内では、氷や保冷剤で冷やすと冷えすぎて、かえって悪化することがあるとしています。きれいな流水がおすすめです。
Q. 韓国の人は今もみんな使っているの?
A. 世代や地域によります。年配の方の家に残っている「昔の常備薬」というイメージに近いと思います。韓国の病院や公的機関は、やけどへの民間療法をすすめていません。
あわせて読みたい
出典
- 韓国 疾病管理庁 国家健康情報ポータル「화상(やけど)」
- 大韓看護協会「看護師が教えるホームケア」やけど
- ヘルス中央「やけどに焼酎・味噌・じゃがいもは禁物」
- 中央日報:済州でアナグマ違法捕獲、野生生物法違反で送検(2024)
- 中央日報:アナグマ製品の流通と飼育への研究チームの提言
- 大韓化粧品協会 成分辞典FAQ(化粧品安全基準等に関する規定)
- 消費者庁「熱い食べ物や飲み物などによるやけどに御注意ください!」
- 政府広報オンライン「乳幼児のやけど事故にご注意を!」
- 日本赤十字社「熱傷(やけど)」
- 仙台市「やけどの応急処置」
- 薬師堂「馬油について」(化粧品に分類されている旨)
- こばとも皮膚科「馬油とは?」皮膚科専門医の解説
- 厚生労働省「医薬品等の広告規制について」
※2026年10月14日までに、上の公的機関・団体・報道で確認した内容です。この記事は韓国の文化を紹介するもので、오소리 기름や馬油をやけどの治療にすすめるものではありません。診断や治療の代わりにもなりません。症状が気になるときは医師や薬剤師に相談してください。イラスト:AI生成イメージ
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